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88歳。有田焼人間国宝の物語~その6~本題の白磁の話

コラム 伝えたいこと

白磁とは「最高の美人」である

美術作品はシンプルなものほど難しい。色鮮やかで有名な有田焼の世界で、一切の加飾に頼らず、白磁の世界を追求してきた人間国宝の井上萬二さん。

「白磁は形そのものが模様だ」と、今も完ぺきな造形を追い求める88歳。分業が一般的な有田で、1人で作品をつくり出す。

絹のようになめらかな白いうわぐすりをまとった磁器に、人間国宝の技が合わさったとき、究極の美が生まれる。

柿右衛門窯で13年にわたって技を磨き、佐賀県窯業試験場で13年間の窯業の研究。白磁は職人であり、研究者である萬二さんだからこそ、生まれた芸術であった。

ただ、有田焼と言えば、柿右衛門に代表される鮮やかな絵付けの磁器が有名である。萬二さんはなぜ、有田で主流ではなかった白磁の世界に、進もうと思ったのか?

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井上萬二さん

なぜ私が白磁に専念したか。焼き物は人類が誕生させてから、より美しく見せようという意識から、加飾がなされました。まるで、女性がメーキャップして美しく見せようとするのと同じように。

赤色をつけたり、黄色をつけたり。焼き物の世界では、いろいろな加飾をして美をつくります。でも、どんなにいい絵をつけようとしても、素地がよくないと駄目でしょう?

素地をつくるためには、ろくろが一番の基本なんですね。私はろくろに専念していたら、ある時思ったんです。「究極の形をつくり出したら、化粧する必要がないではないか。いわば、最高の美人に作ったら、化粧もいらないんじゃないか」と。

磁器の染め付けも、やったことはありますよ。でも、ろくろに没頭して、これでもか、これでもか、とやっていたら、最高の形ができたんです。「うわー、これはもう何もする必要がない」という域に達したんです。そこで、白磁に専念するようになったのです。

白磁というのは、磁器の素地のもとになるもの。その芸術性を高めたということで、私は1995年(平成7年)、国の重要無形文化財「白磁」の保持者に認定されました。

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技術とセンスがあって生まれる「白磁」

有田といえば、柿右衛門にしろ、古伊万里にしろ、染め付け、加飾をやってきたわけです。なぜ加飾をしたかと言えば、有田の石には鉄粉が含まれており、焼き物にした時に目立つ。それを化粧で隠そうとしたわけです。古来、ヨーロッパに輸出したものは、加飾をされたものです。だから、昔は白磁だけで作品を作るのはありえない社会だったんです。技術的にも難しかったんです。

私が白磁に挑戦した際、陶土の研究も必要でした。鉄分が一つもないようにするには、どうすべきか。昔は自然の精製法でやってきたから不純物も多かったけど、現代は化学的に処理できるわけです。鉄分の処理ができて完璧な陶土をつくったら、白磁ができるだろうと思いました。

陶土をつくるにしても、仕事場をゴミひとつないような、きれいな環境にしなくてはならない。素地の研究もしないといけない。「白磁」とはあらゆる点において、厳しい環境の上に成り立っているんです。

そして“最高の美人”の作品を作るには、高度な技術が必要です。いくら技術があっても、創造するセンスがないとダメです。技術とセンスが相まって生み出されたものが白磁なんです。

一人の作家が一人で生み出す「一つの芸術品」

有田焼でも、柿右衛門は“柿右衛門スタイル”を職人たちが総合して作り上げる「総合芸術品」と言えます。今右衛門も同じです。

一方で、私の白磁は、長い年月に渡って磨いてきた技と美意識で生み出す「一つの芸術品」です。

どちらが良いとか、悪いとかではなく、これが有田の生き方なんです。

私が選んだのが、「一作品」をつくるという道だったんです。

 

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