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88歳。有田焼人間国宝の物語~その7~伝統とは何か?

コラム 伝えたいこと

伝統とは過去の模倣ではない

佐賀県有田の地に有田焼が起きてから、昨年(2016年)で400年。有田焼の重要無形文化財(人間国宝)の井上萬二さんは、お祝いムードに沸いた「焼き物の町」に警鐘を鳴らす。

「400年とはお祝いの年ではない。有田の伝統を築き上げてきた先人たちの思いを心に抱きながら、原点に立ち帰って、有田の焼き物を向上させる年なんだ」。萬二さんは、技術力のある次世代の陶芸家が減少していることを憂う。一代で「井上萬二窯」を全国に名を馳せる存在にした陶芸家にとって、伝統とは何か?

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井上萬二さん

2016年、有田焼は400年の節目の年を迎えました。

400年は原点に帰るための節目です。300数十年前の環境の悪い時代に、無名の陶工たちが名品を生み出しました。先人たちが栄誉のためではなく、ひたすら精進してきたおかげで、今の有田があるんです。昔の素晴らしい有田磁器を収集した「柴田夫妻コレクション」は1万点以上も残っていますが、そんな名品をつくる技術を持った人が、今の有田にいると思いますか。

現代は現代の生産過程でいいから、先人たちの心を抱きながら原点に帰って、有田の焼き物の向上を図らなければならないと思うんです。だから、400年をお祝いとして終わらせてはなりません。私は「原点に帰る年。今の有田にとっての警鐘の年なんだ」と言っているんです。

陶芸家というものは古いもの復元する技術は持たないといけないです。ただ、模倣して作ることはありえない。常に新しいものを生み出す気持ちをもたないといけません。

伝統は、昔のものを模すことが伝統ではありません。先人たちの技を受け継いで、その技を使って、現代の感覚で作品を生み出していく必要がある。それが「平成の伝統」をつくることになるわけです。

繰り返しますが、伝統とは100年、50年前のものを模したものではない。あと50年後、「平成の伝統」だというものをつくっていくことです。先人の技を受け継ぎながら、平成の感覚で平成のものをつくっていくのが、われわれの仕事なんです。「伝統」という言葉は古くても、新しい感覚じゃないとダメなんです。

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私が白磁を伝統工芸展に初めて出展したとき、空にあこがれていたから、「流れ雲」の作品を出しました。人間の目に見えるのは、青空に白い雲が普通でしょ。でも焼き物は、白い空に青い雲で作ったのです。私の作品は必ずしも、真っ白な白磁ばかりではありません。常に夢を抱いて作品づくりをやっています。

地方や外国を旅行して、神社仏閣や地方の習慣を見たりして、美意識を取り入れる。そこから、「よし! こういうものを作ってみようか」と、新たな挑戦しているんです。私の作品づくりで、古いものを模すなんてありえません。88歳になっても、常に新しいことに挑む気持ちを持っているのです。

われわれ陶芸家の技術は、自分たちが生み出したものではありません。やはり先人たちから受け継いだ技なのです。だから、その技を自分たちだけで終わらせるのではなく、伝承していくのも、われわれの仕事です。重要無形文化財(人間国宝)は、これまでの精進に対する栄誉でいただいたわけではありません。「さらに研さんを積みなさい。後継者育成の義務を持たなくてはいけませんよ」という、意味があるのです。

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