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88歳。有田焼人間国宝の物語~その8~「継承」とは?

コラム 伝えたいこと

「技は惜しみなく伝える。でも、アイデアは伝えない」

有田焼の重要無形文化財「白磁」の保持者、井上萬二さんは、自らが長年の厳しい修行で身に付けた技を、次世代の陶芸家らに惜しみなく伝える。また、一般向けにも私財を投げ打って、無料の陶芸教室を行っている。

「日本には500人、アメリカには300人の教え子がいる」という萬二さん。

たとえ授業料を取っても、人間国宝に学べるとなれば、多くの人が教えを請うだろう。でも、萬二さんには、そんな考えはない。

後進の指導に熱心な人間国宝・井上萬二さんにとって、「継承」とは何なのか?

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井上萬二さん

われわれ陶芸家の技術は、自分たちが生み出したものではなく、先人たちから受け継いだものです。だから、自分の代で終わるのでなく、技を伝えていくのもわれわれの仕事なんです。重要無形文化財保持者(人間国宝)は、後継者育成の義務があるのです。

私はこれまでに、たくさんの若い人たちの育成をやってきました。若い人たちに自分の持った技術でよければ、と伝えてきたんです。

かつて勤めた佐賀県窯業試験場は、あくまで研究機関。教育機関ではありませんでした。でも、次世代の陶芸家の育成を図ろうと私は考えました。その結果、佐賀県立有田窯業大学(佐賀大学芸術デザイン学部に統合)ができたんです。

私には日本に500人の教え子がいますし、アメリカには300人の学生の教え子がいます。10の技を教えるには、12、13、14の技がなければ、教えられません。そのためには、自己の研さんが必要になります。教えるためには、自分も勉強しないといけません。私は自らの勉強の場を、自分で作っていっているわけです。

山の中に建物を建てて月に2回、一般の人向けの陶芸教室も行っています。普通は月謝を取るのでしょうが、私は無償でやっています。今でも20名の老若男女の方が、九州中から来ています。正直、自分の作陶活動の中で、教室を開いたって、メリットはないですよ。

でも、陶芸教室に行くのも、人生の楽しみなんです。いろいろな職種、男女、年齢の方が来る。そんな人たちと話をするのが、自分の人生の糧にもなります。そして、彼ら彼女らに私の技を与えます。「人に楽しみを与え、自分も楽しめればいいじゃないか」と思って、あえてやっているんです。

陶芸教室には、長い人で20年以上来ています。伝統工芸展に入賞する人もいますし、東京の百貨店で展覧会を開いて販売する人もいますよ。教室にはどうやったら入れるかって? 幹事さんがいるので任せてます。新たに入りたい人がいたら、教室に通う人たちがオッケーかどうか決めるわけです。 

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(一代で築いた)井上萬二窯と「井上萬二」という名は、私が死んだら受け継いでいかれるでしょうね。息子(井上康徳さん)と孫(井上祐希さん)にも、技を伝えています。ただ創作のアイデアは教えない。アイデアは自分の感覚でないと。

私の「伝統」である技は伝えます。でも、アイデアは各陶芸家が自分の好きなようにしないといけない。私がアイデアまで与えてしまうと、私の作品になります。親のモノマネを継承していくのは、企業です。作家ではありません。息子は息子なりに、孫は孫なりに厳しい試練を経ていかないと、いけないのです。

私も88歳。あとは子供たちに任せてもいい年なんですけど、それじゃすまない。重要無形文化財という称号を国から与えられた以上、命が尽きるまで後継者の育成に努めていく義務があるのです。

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