井上萬二さんの言葉から、
人生のヒントは見つけられましたか?
純白の肌には、いささかの曇りもない。見とれるばかりの美しい女性。そんな表現がぴったりな磁器、白磁。
華やかな装飾で知られ、400年の歴史を誇る有田焼で、白磁は一切の加飾を削ぎ落とす。ろくろの名人がつくる完ぺきな形が、絹のような白いうわぐすりを肌にまとったとき、「最高の美人」が生まれる。
重要無形文化財「白磁」保持者の人間国宝・井上萬二さん。「88歳。有田焼人間国宝の物語」のシリーズは90歳を前にして、なおも挑戦を続ける萬二さんの生きざまを追った。読者のみなさんが、人間国宝の言葉から、一つでも充実した人生を送るためのヒントを見つけられた、としたら幸いだ。最後に、言葉をざっとまとめてみた。
井上萬二さんの心に残る言葉集
・年は意識しない。意識したら先は暗い。作陶の意欲があるうちは、心は「青年期」。
・目標を持って努力をすることが大切だ。努力をしていれば、誰かが必ず見てくれている。努力をしていれば、人生の不安も取り除ける。13年努力すれば、誰しも何かを成し遂げられる。
・誰しも、人生で壁にぶつかる。人生の壁をつきやぶるきっかけは、人との出会い。出会いは大切だ。人と人とのつながりを大切にしなければならない。
・人生は常にチャレンジである。常に創造を続ける。絵付けで有名な有田焼で白磁の世界を切り開いた萬二さん。安定の公務員を辞め、40代で起業した。
・伝統を守るとは、過去の模倣をしていくことではない。先人の伝統の技を受け継ぎつつ、現代の新しい感覚で「平成の伝統」をつくっていかなければならない。
・自ら身に付けた技は先人から受け継いだもの。だから、惜しみなく後進に技を伝える。ただ、人に10の教えるためには、11、12、13、14の技を持っていなければならない。そのための自己研さんは怠らない。
どこかで聞いたことがある話もあるかもしれない。だが、一つの道を極めた男の経験からくる言葉。心にぐっと響く。
井上萬二さんはとっても気さくな方だった
最後は、筆者が感じた萬二さんについて、伝えたい。
人間国宝と聞いて正直、気難しいお年寄りを想像していた。だが、萬二さんは約2時間のインタビューを通して、とっても気さくだった。そして優しかった。
取材は当初、フリーアナウンサーのよしたけふみさんと行く予定だった。しかし、飛行機の遅れでよしたけさんが間に合わなくなった。どうしても、萬二さんとよしたけさんの2ショットが撮影したい。夕方、ダメ元で電話してみた。運良く会合から戻ったばかり。食事中だった萬二さんは、食べるのを中断して、出てきてくれた。しかも、ニッコリと笑って。
インタビューの最後に興味があって、聞いてみた。「人間国宝なのに、作品のお値段が安くないですか?」と。(萬二さんの作品は、他の人間国宝の陶芸家と比べるとかなり安い。もちろん、それなりのお値段はするのだが)
「他の人間国宝が1日に1作品つくるとしたら、私は1日に3作品つくれますから」。何ともカッコイイ答えが返ってきた。