「ヨンキュープラス」49歳以上のおじさんおばさんに正直なメディアをつくってみました。ご賞味ください。

雨にも負けず。ゑびす酒造。

商品紹介 お酒のお話

麦焼酎「らんびき」は元気です

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湿っぽい暑さが残る9月初めの夜。

福岡市中央区のホテルニューオータニ博多にある男がいた。樫樽長期貯蔵の麦焼酎「らんびき」醸造元、ゑびす酒造の代表、田中健太郎さんだ。

キラキラと光り輝くスポットライトの下で、大勢の人の目が彼に向いていた。蔵のある福岡県朝倉市杷木を襲った九州北部豪雨から、2ヶ月後のことだった。

焼酎情報サイトの「九州焼酎島」の取材で、ゑびす酒造を訪れたのは2016年夏だった。緑いっぱいの山々の間を、九州一の大河、筑後川がきらめきながら流れていた。わずか1年ほど前に見た美しい風景は、記録的豪雨で、一変した。

報道で流れてくる、写真や映像は、濁流で冠水した道路と大量の流木。撮影場所を見ると、「杷木林田」。彼の蔵があるところだ。大丈夫だろうか? 健太郎さんに電話を入れた。

蔵の数百メートル先は甚大な被害

「蔵は大丈夫です。被害はありません」。健太郎さんの第一声は思っていたよりも、元気だった。ただ、すぐに声のトーンを落とした。「蔵から200メートルほど行くと、流木があふれています。日田方面は土砂崩れも起こっていて、幼いころから見慣れた景色が、すっかり変わってしまいました。お世話になっていた地元の3つの酒店が大きな被害を受けました。地元のお客さんには亡くなられた方がいます」

ウイスキーに負けない蒸留酒「らんびき」

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ゑびす酒造は1885年(明治18年)創業の老舗だ。創業者の荻竹次郎が、杷木の地に蔵を開いたのは、おいしい水の豊富さから。蔵の最大の特長である、長期樽貯蔵の麦焼酎は、大自然の恵みを受けてつくられ、地元の人たちに飲まれてきた。

「ウイスキー全盛の昭和30年代。3代目がウイスキーの蒸留したての原酒を味わった時、焼酎の蒸留したての方がうまいと感じたそうです。ウイスキーと同じ条件で貯蔵すれば、勝てる。そう思ったようです。日本の焼酎会社で木樽貯蔵を始めたのは3番目でした」

蔵の中には、200弱のフレンチ、アメリカンのオーク樽が何年も眠っている。ゆっくりと熟成の時を重ね、ウイスキーに負けない麦の芳醇な香りとまろやかな口当たりの蒸留酒になる。「らんびき」は3~15年、樫樽で寝かせ、瓶に詰めている。熟成期間が長いから、大量生産はできない。

ライバル酒造メーカーも認める焼酎

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取材をきっかけに「らんびき」を初めて味わったが、個性豊かな麦の味わい、鼻を抜ける心地よい香りの余韻に、すっかりハマった。今流行りのソーダ割り、つまりハイボールにすると、最高である。

私の周りでも、「らんびき」ファンがどんどん増えてきた。ライバル酒造の関係者から、「らんびきは、大化けするよ」との声を何度も聞いた。もっと味を知ってもらえたら、大人気になるのに。

ゑびすの酒が大躍進

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2ヶ月後、健太郎さんはホテルニューオータニ博多の大きな会場で、大勢の人たちを前にスピーチをしていた。

福岡の優れたお酒を選ぶ、2017年の第6福岡県酒類鑑評会で、ゑびす酒造の商品が大躍進。麦焼酎長期貯蔵の部で、「古酒ゑびす蔵」が福岡県知事賞、「けいこうとなるも」が福岡県議会議長賞と優秀賞を独占するなど、焼酎部門で県内酒蔵最多の5銘柄が優秀な成績を収めたのだ。

「町の復興までには、そうとうな時間がかかりそうです。私は地元のために身近なところから、できることをやっていこうと思います。できることと言ったら、焼酎造りなんですが」

健太郎さんは、私にそう話した。

地元が苦しい状況の中でも、下を向かない。そして、これからも、うまい焼酎を造り続けていく。普段から、ゑびす酒造の焼酎を飲んでくれていた地元のお客さんたちに、「らんびき」を飲んで、心の底から笑顔になってもらえる日を信じて。